SHIROBAKO Advent Calendar 2016 始まりました。ということで、瀬川さんの話をします。
出典 : http://shirobako-anime.com/character.html
瀬川さんと言えば、宮森も見惚れる風貌や、最終回でのほろ酔い姿で視聴者を魅了したことは言うまでもありませんが、やはり最も印象的なのは ベテランの風格溢れる仕事への姿勢と言えるでしょう。
第1話でタイトなスケジュールで割り込みの仕事をこなす中、額に冷えピタを貼って 「綱渡りか…」と独り言をつぶやく様は、さながら情熱大陸のワンシーンのようでした。
もちろんアニメなので脚色は入っているとは理解しつつも、瀬川美里という1人のフリーランスアニメーターについて振り返ることは非常に有益だと思うので、印象的なシーンを例に上げて簡単にまとめておこうと思います。
クオリティに対する意識
実は、瀬川さんの登場シーンは全話合わせても10分弱程度しかありません。にもかかわらず、登場するたびに仕事のクオリティに対する意識の高さが伝わってきます。
第1話で急遽原画をお願いされた時も、最低限のクオリティを担保することを前提に話をしています。
瀬川「おぉ…原画アップいつまで?」
宮森「明後日午前中…みたいな…」
瀬川「それは無理!」
本田「お願いします!瀬川さんにしか頼めないんです!二原も立てます!ラフ原で構いませんから!」
瀬川「それはやだ。 やるならちゃんとやりたいし。」
瀬川さんの素晴らしいところは、 締切を意識した上でクオリティをいかに高めるかをちゃんと考えているところです。自分のキャパを超えてしまってクオリティを担保できないと感じれば、仕事を受けないこともありました。
瀬川「速攻で断ったよ。『えくそだすっ!』が終わるまで掛け持ちはできませんって。」
こういうクオリティに対する意識は、きっと 自分がどこで価値を出すべきかを常に考えることで身についたものなのでしょう。フリーランスのアニメーターというのは、期待値を上回る仕事をして認められ続けなければならないというプレッシャーもあるのかもしれません。第22話で語った台詞がそれを物語っているように感じます。
瀬川「クリエイターには関わった話数一本一本が名刺代わりってこと。流して描く作品なんてないってこと。」
劇中では結構キャパを超えて無理をするシーンもありましたが、それでも受けた仕事は最大のクオリティで応えようと机に向かう姿は、見ていて身が引き締まる思いでした。
プロとしての厳しさ
クオリティを担保するためには、時に他者と戦わなければなりません。戦うというのは、 「これは困る」「やめてほしい」「こうしてほしい」という要求を、相手にもわかるように説明し、動いてもらわなければならないということです。
こうした要求は、遠慮をしすぎると相手に伝わりません。そのため、一見厳しい物言いになってしまうこともあります。
デスクになった宮森に、平岡を担当から外してくれと要求するシーンもありました。
瀬川「 平岡くん、私の話数の担当から外してもらえない?」
宮森「えっ?」
瀬川「集めてきた原画マンは雑な作業する人ばかりだし、2、3日顔見せないと思ったら一気に上がりを持ってくる。リテイク出したら勘弁してください。何より嫌なのは、数出せば内容はどうでもいいって態度。これじゃ太郎くんの方がマシに思えてくるよ。あ、いや、どっちかっていうとってことだから。 とにかく、もうあの人はよこさないでくれる?」
かなりキツい物言いに見えますが、プロとして仕事をする上ではちゃんと然るべき人に要求を伝えるのは正しい気がします。
新卒2年目の宮森にも厳しい要求をしていますが、プロとして仕事を請け負っている以上お互いに対等な立場で話しているだけなんですよね。
平岡を担当から外さず改善案を持ってきた宮森とのやりとりも厳しいように見えますが、個人を攻撃するのではなくあくまで仕事をする上で譲れない部分を伝えています。
瀬川「それって、この次何かあったら宮森さんが責任取ってくれるってことで、いいんだよね?」
宮森「…はい…!」
瀬川「具体的には、どうやって?」
宮森「うぅ…」
瀬川「エンドクレジットに作監の名前が出る意味わかる?いいものも悪いものも、全部こっちの責任になるんだよ。」
宮森「わかります!立場は違いますが私も一緒です!…と思います…」
そして、瀬川さんの厳しい要求は誰に対してもフェアです。実際、イデポンの富岡監督と口論して言い負かしたという逸話も語られています。
当然ですが、このやり方は今まで積み重ねてきた仕事の実績や信頼があるからこそ成り立っています。第7話で演出の山田さんに 「瀬川さん、そろそろキャラデザやらないかな」と言わせるほど技量を磨き、信頼を積み重ねたからこそ受け入れられる厳しさなのだと思います。
人を伸ばすフォロー
第7話では、速度を重視しすぎてクオリティを落としてしまった絵麻に対して即座に4カットリテイクを出しています。
瀬川「急いで上げてくれたのはいいんだけど、個々のカットがどうこうっていうより、原画の書き方自体の問題だから。」
瀬川「これ、書き急いでるせいで、全部の線がなんとなくでとりあえずなの。つまり、動画がものすごく拾いにくい線だってこと。中割りしづらいし、動画が溶けちゃう。」
宮森「了解しました。この件については私から…」
瀬川「安原さんね、真面目で一生懸命な人だと思ってたんだけど、ちょっとがっかりした。」
宮森「え…」
瀬川「今回もらったカット、安原さんがもともと持ってた真面目さとか几帳面さとか、全然なくなってるし。こんな手の抜き方覚えちゃダメ。」
自分の力量に悩んでいた絵麻にとってはかなり厳しい指摘でしたが、瀬川さんの素晴らしいところはそこから先のフォローもちゃんとしているところです。後日、宮森との会話の中でさりげなく絵麻について話しているシーンがあります。
瀬川「あ、それでね、安原さんどう?何か言ってた?」
宮森「あ、いえ、その、別に…てゆーか、頑張らないとみたいなことを言ってました!」
瀬川「そっか…うまく伝わってるといいんだけど…」
瀬川「きっと、もう少ししたら、安原さんも普通にできるようになることなんだよ。自分のあとの工程のことを考えて描くなんてことは。でも、今はまだわからない。わからないからできない。ちょっとの違いなんだけどねぇ。」
宮森「じゃあ絵麻…安原の原画がダメってことはないんですよね?」
瀬川「えっとねぇ、ダメじゃない。でも、いいとも言えない。」
宮森「そうですか…」
瀬川「 うまく乗り切ってくれるといいなぁ」
そして、絵麻が少し壁を乗り越えていい原画を上げてきた後には直接声をかけて褒めてあげているんですよね。
瀬川「あ、安原さん。」
絵麻「…!この間はご迷惑をかけてすみませんでした!」
瀬川「たしかに、ちょっとあの時は飛ばしてたよねぇ。」
絵麻「はい…」
瀬川「 でも、そのあと上がってきた猫の原画はよかった!」
絵麻「えっ」
瀬川「 よく観察して書いたでしょう?猫が寝転ぶポーズとか、可愛かった!」
厳しく接しつつも、いいと思ったことをちゃんと本人によかったと伝えることは、簡単なようでなかなか自然にはできません。
余談ですが、この時の瀬川さんの猫の手のジェスチャーは完全に正義でした。
他にも、第6話で遠藤さんのことを気にしたり、全体のスケジュールを考えて宮森をフォローしたりと随所に細かな気遣いが感じられます。
「それは、はい」
そんな厳しくも優しい瀬川さんですが、何とも複雑な表情で話すシーンがあります。第11話で『えくそだすっ!』最終話の原稿を撒けていない宮森と瀬川さんの会話のワンシーンです。
原画マンの足りない時に、宮森が「(原画撒くのは頑張りますので)引き続き、Aパートの作監よろしくお願いします!」と言った際、それまでにこやかに話していた瀬川さんが真顔で 「それは、はい」 と応えるシーンです。
出典 : http://anicobin.ldblog.jp/archives/42488573.html
この表情の真意は視聴者の想像に任されているので推測でしか語ることができません。
Aパートが埋まっていないことに対する不安、質の低い画を上げてくるアニメーターがアサインされるリスクなどが頭によぎってしまい、元気に返事はできないけれども、受け持った仕事はもちろんやるという覚悟とも取れます。
また、これから起こるであろう大変さをまだ理解できていない宮森との温度差に対して少し憤りを感じる一方で、前向きに頑張ろうとしている宮森の気力を削ぎたくもないという大人の感情が、あの何とも言えない真顔となって表れたのかもしれません。
これは自分の中では、ダントツでベストシーン・オブ・瀬川さんでした。
今回、瀬川さんのシーンをざっと見返したのですが、瀬川美里というフリーランスアニメーターの働き方こそ 圧倒的当事者意識と呼ぶにふさわしいなと思いました。特に、絵麻への原画のフィードバックのシーンは何度見ても目頭が熱くなるので最高ですね。
最後になりますが、 瀬川さんにビビる遠藤さんが大好きなのでそれを眺めて終わりたいと思います。
出典 : http://aaieba.livedoor.biz/archives/44042687.html
出典 : http://yaraon.blog109.fc2.com/blog-entry-30970.html